芭蕉、那須の旅路

「芭蕉の木造」 作=平野富山 那須歴史探訪館収蔵 

芭蕉の館

松尾芭蕉が、那須町に滞在した5日間を
残された資料と共に足取りを解説。

芭蕉翁塚

高久家滞在

 芭蕉(当時46歳)は、元禄2年(1689)4月16日、13日間を過ごした黒羽を発ち、一路那須温泉に向かいます。お弟子さんの「曽良」が残した随行日記には、昼頃、馬にて黒羽の余瀬を出発したが、野間で馬を返したなどと書かれています。この途中で作られた俳句が有名な「野を横に馬牽きむけよほととぎす」です。
 余瀬から高久家までは4里(16km)の道のりと記されています。高久家(大字高久甲)では、角(覚)左衛門(28歳)に迎えられます。若い当主ながら、角(覚)左衛門は、黒羽藩の大名主です。年の違う二人はどんな話をしたのでしょうか。
 この日の朝、天気は良く、やがて雨になったようです。芭蕉が角(覚)左衛門に与えたとされる懐紙が当家に残っていますが、それには、「殺生石を見ようと那須の篠原をたずねてきたが、雨が降り出してきたので、ここに留まることにした」というようなことが書かれています。そして芭蕉(風羅坊)の発句と曽良の脇句が下記のように残されています。「落ちくるやたかくの宿の郭公 風羅坊」「木の葉をのぞく短夜の雨 曽良」高久家では次の17日も雨で天気に恵まれませんでした。芭蕉と曽良はここに二泊し、18日の昼頃、雨が止んだ空の下、那須殺生石へと高久家を後にしました。松子まではやはり馬に乗ったようです。昼過ぎは快晴だったようですから、芭蕉は馬上から那須連山をはっきりと見たのではないでしょうか。やがて芭蕉は徒歩で湯本へと向かいました。

高久家に伝わる 「芭蕉懐紙」

浮世絵版画 「九尾の狐」 作=歌川国貞 

湯本滞在(那須湯本 那須温泉神社)
「湯を結ぶ誓いも同じ岩清水」

 18日の、午後早いうち(3時頃ヵ)に湯本に着いた芭蕉は、現在の民宿街の和泉屋(主人は五左衛門)に草鞋をぬぎ18、19日と宿泊します。この両日は天気に恵まれ、芭蕉は曽良とともに、那須温泉神社を訪れ参拝し、神主の室井越中に迎えられて、那須与一ゆかりの宝物などを観覧しています。ここでは「湯を結ぶ誓いも同じ岩清水」の俳句を残しています。

湯本滞在(那須湯本 殺生石)
「石の香や夏草赤く露あつし」

 午後には、五左衛門の案内で殺生石を見学しています。「殺生石」は、その物語性のおもしろさから、室町時代には謡曲(お能)、やがて浄瑠璃、歌舞伎でも上演され、江戸の文化元年(1804)に、高井蘭山により大作「絵本三国妖婦伝」が出版されるに及んで、世間に広く知られるようになりました。芭蕉は、文化元年のこの出版物は読んではいませんが、博学の芭蕉は、室町時代の「下学集」「玉藻の草紙」その他の文献に目を通していたのではないでしょうか。芭蕉の湯本への旅の中心目的はこの殺生石にあったのですから。「おくのほそ道」には、この殺生石の光景を次のように活写しています。「石の毒気いまだ滅びず。蜂蝶のたぐい真砂の色の見えぬほど重なり死す」また、「おくのほそ道」には収録されていませんが、この地で次の名句が造られています。「石の香や夏草赤く露あつし」。

芦野の里(那須芦野 遊行柳)
「田一枚植ゑて立ち去る柳かな」

4月20日(新暦の6月7日)の朝、芭蕉は和泉屋を出て、一路芦野の里に向かいます。曽良の随行日記には、小や村とウルシ塚を通り、計5里余り(20Km少々)で芦野に着いたと記されています。しかし、どの道を通ったかは定かではありません。曽良は、「湯本ヨリ総て山道ニテ能く知レズシテ通リ難シ」などと記しています。今では、想像もつかない、道無き道だったのかもしれません。「おくのほそ道」では、芦野について8行ほど費やしていますが、この8行がいろいろな情報を与えてくれます。19代芦野領主が芭蕉の門下であったこと、領主は「遊行柳」を自慢して、芭蕉に一見を勧めていたらしいこと、そして注意すべきことは、芭蕉が、「遊行柳」とは言わず、「清水流るゝの柳」と呼んでいたことです。まさにここにこそ、西行法師に対する芭蕉の深い敬慕の念が表れているのです。すなわち、西行の名歌、「道野辺に清水流るゝ柳陰しばしとてこそ立ち止まりつれ」の「清水流るゝの柳」をとっているのです。 芭蕉は、少なくとも、昼頃には、この「清水流るゝの柳」に着いたと思われます。芭蕉一行を案内したのは、当地の茶屋松本市兵衛なのですが、この時、領主や芦野氏家来がどのように関わったのかは、残念ながら資料がなく分かっていません。芭蕉は、「どこにあるのかなと思っていたが、今日やっと、この柳の影に立つことをえた」という意味の文章を、次の名句とともに残しています。「田一枚植ゑて立ち去る柳かな」。芭蕉は、ここから寄居村を経て宿泊地へ、4里少々(約17Kmヵ)の道のりを旗宿村へ向かいました。

掛軸  作=小杉放庵 芭蕉の館収蔵 

那須歴史探訪館

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